外泊しての結婚式(3)

後で聞いたんだけど、会場となったホテルのお料理はおいしいので有名なんですって。
どうりで。
普通結婚式のお料理ってそんなに食べないものですよね。まして洋食メニューだから、年寄り連中はそうは食わないだろう。だから私も十分がんばれると楽観していた。
それなのになんだ、この食いっぷりは。親族席ってのは、ましてそんなに食わんもんだろうが。気持ちが一杯で..じゃないのか?
ご祝儀払った分食わないと、っていう会社同僚・友人関係みたいな食い方だぞ。

オードブルは私の大好物であるサケの薫製を使ったもの。
叔父さん、叔母さん連中が食う食うわ。あっという間に、私のテーブルではほぼ全員が完食していた。
食べちゃおうかな...ちょっとだけなら...
悪魔の誘惑が頭を駆けめぐる。
いいや、ここで挫折したのでは病棟の看護師さん、先生に顔向けできない。ぐっと我慢だ。
「これも、食べてください。」
隣の叔父さんにお皿をまわす。そして私は自分のフォークやナイフを適当に汚して、叔父さんの食べ終えたお皿にのせる。

えへん。芸が細かいでしょう。手つかずのお皿やカトラリーを下膳させたら、調理してくれた人たちに申し訳ない。誰が食べたにせよ、ちゃんと食べた風に装う。
この気配りは会食の最後まで続くのでした。

スープがきて、サラダ、・・・・と続きます。私はせっせとお皿を、すでに食べ終えた親戚にまわしてやる。いらないと言われてもむりやり押しつける。
あんまり抵抗がなかったのは、やはりお料理がおいしかったせいのようでした。
だれかが私の分を食べてる間に、私は律儀にカトラリーを汚している。なんかむなしいような気がしてきた。(くそっ、退院したらフルコース食べに来てやる!)

唯一の救いは、オレンジジュースがあったこと。ホテルの生ジュースだもの、おいしい。
これなら水分だし、飲んだって文句ないでしょう?
味気ないウーロン茶なんか飲めるかい!
とはいえ、仮釈放中の身の上だけに後が怖くて、がぶがぶとは飲めない。ちびりちびり。ああ、おいしいなあ。


披露宴も場がこなれてきて、余興タイムがはじまる。
花嫁側関係のおばちゃんの歌謡ショーやら、花婿側関係の友人たちのど下手な歌やら、結婚式(披露宴)にはよくある出し物が続きます。
私はすること(食べること)もないまま、必要以上に熱心にそれを見ている。見ているばかりか、カメラを手にして写真撮影まで始める。
こんな出し物、写真とる価値もないぜ。
内心はそう思っているけど、なにせ他にすること無いからね。カメラワークにこだわったりして、何枚もシャッターをきる。
デジカメはいいねえ。あとで消しちゃえるもん。
熱心にモニターを覗いていると、少しは食べ物のことを忘れられる。

キャンドル・サービスと花嫁のお色直しは絶好のカメラタイムです。あとでDVDに焼いてあげようと、カメラを動画モードにして撮影をはじめる。
スッポトライトがまぶしくて、あとで画像ファイルを見てみると、あちこち白飛びしている。
まあ、いいさ。どうせ食べることを忘れるためのカメラマンだもの。本気のカメラマンは新郎の伯父さんが務めているからね。

そうこうカメラを手にしているうちに、披露宴も終盤にさしかかり、テーブルの上には本日のメインディッシュが運ばれてきました。
くそっ、これも私の大好物じゃないの。小さいけどおいしそうなステーキ。

見ると、誰も彼もが式の演出から我にかえって、いっせいにステーキをパクついている。
ふつう女の人はそんなにお肉は食べないもんだ。おじさん、おばさん世代はお肉料理は苦手なもんだ。
こんな常識がふっとぶ勢いだ。
次々お皿がきれいに食べられてゆく。私が差し出したお皿も、すんなりと受け取られて食べられちゃった。
どんだけおいしいんだろう。カトラリーを汚しながら、せめてソースだけでも味わっちゃおうかなんていじましい考えが頭をよぎる。
さすがにここまで我慢してきた勢いもあって、お皿をなめるあさましさは回避できた。
こうなると、かえって食べないことにリキが入っちゃうんだよね。

くさい演出満点の「両親への挨拶」。本人たちがあとになってビデオを見たら人生で一番こっ恥ずかしいと感じるだろうな。
親たちだけが本気で感極まっている。見てるこっちはすごい居心地が悪い。
写真をとって間を持たせようとするけど、さっき動画を撮りすぎたな。メモリがもうほとんどない。もう動画は無理。静止画を数枚撮るのが限度。
ちょうど1GB使ったわけだ。
残り少ない枚数を考慮して、ベストショットを狙う。これはこれでいい時間がつぶせたことになった。

残りメモリが0となったところで、ようやく式も終わりとなりました。
やった~! 食べないで通せたぞ。病室に帰ったら、看護師たちに自慢してやる。
テーブルのお花を、看護師さんたちへのおみやげにと、紙にくるんで紙袋にしまい込む。(ちゃんと、やることはやってるんですよ!)


式の余韻さめやらぬ間に、私はさっさと帰る準備。
それじゃ私はこれで。タクシーに乗って一旦自宅へもどる。
礼服を着替えて、病棟へ持ってゆく荷物をまとめる。看護師さんへのおみやげのお花を忘れちゃ大変。

病院に戻り、看護婦詰め所で声をかける。
戻りました~。これ縁起物のお花で~す。
病室に入り、病衣に着替える。
そうしているうちに看護にたちが次々やってくる。そう、病棟に戻れば私は患者さん。本日分の点滴が待っているのです。
ええ、ちゃんと言いつけを守って何も食べませんでしたよ。褒められることを期待する子供みたいに、ちがう看護師が来るたびに自慢する。
点滴の針もすんなんりと入って、ふたたび私は入院患者に戻ったのでした。

カウントダウン:余命1160日

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